バイナリー・ハート 番外編


 優しくて可愛らしい、笑顔の副局長。
 ランシュは本当に、そんなフェティを知っている。

 あれはまだ、ランシュが子どもで、フェティが副局長ではなく入局して間もない新人局員だった頃の事だ。

 病弱であまり騒ぐ事もなく、お行儀よくて聞き分けのいいランシュは、局内の女性たちに可愛がられていた。

 ちょうどそういう年頃だったのかもしれない。
 優しくされたり、かまわれたりするのがランシュには少しうっとうしかった。

 長くは生きられないという、自分の運命はすでに知っていた。
 彼女たちの優しさが、かわいそうな子どもに対する憐れみのような気がして、なおさら心は冷めてしまう。

 表には出さなかったが、ランシュは内心かわい気のない子どもだった。

 ランシュの部屋は研究室の並ぶ一角にあった。
 部屋の外をうろついていると、必ずと言っていいほど、女性研究者にかまわれる。

 今日も局内の図書室で、若い女性局員にお気に入りの本をお薦めされた。

 礼を言って薦められた本を手に取る。

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