バイナリー・ハート 番外編
彼女が子どもの頃に夢中になったというその本は、弱虫だった少年が不思議な縁と運命に導かれ、やがては世界を救う勇者へと成長していくという、冒険ファンタジーだった。
ランシュはその場でパラパラとページをめくり、お薦めした彼女がいない事を確認して、本を棚に戻した。
興味ない。
こんな子供騙しな絵空事。
現実から目を背け、夢の世界に遊べとでも言うのか。
フンと鼻を鳴らして本棚に背を向けた時、背後でクスリと笑い声が聞こえた。
「いい性格してるのね、あなた」
振り返ると、ブロンドの美女がいた。
口元に微かな笑みを湛え、ガラス玉のように澄んだブルーの瞳がランシュの心の奥を見透かしたかのように、真っ直ぐこちらを見据えている。
白衣を羽織っているという事は、研究者なのだろう。