バイナリー・ハート 番外編
やたらと女性にかまわれるし、あまり数もいないので、ほとんどの女性局員の顔は把握しているつもりだった。
けれど彼女には見覚えがない。
彼女は側まで来ると、ランシュが戻した本を手に取り、表紙を眺めてすぐ棚に戻した。
「冒険物語には興味ないの?」
「そういう作り話には興味ない。オレにとっては現実の方がよっぽど作り話みたいだもの」
「ふーん。冷めてるのね。普段の人当たりがいい、いい子チャンは演技だったの?」
「別に……。反抗したりするの、面倒なだけ」
人付き合いに限らず、ランシュは何もかもが面倒だと思っていた。
彼女の方はランシュの事を知っているようだ。
それも当然と言えば当然だろう。
一般人が立ち入れない領域を、うろついている子どもなど、目立ってしょうがない。