バイナリー・ハート 番外編


 誰なのか尋ねると、彼女は今年入局したバイオ科学者で、フェティ=クリネと名乗った。

 局内をうろついている子どもが珍しくて、ずっとランシュを観察していたらしい。
 バイオ科学者なら、なおさらランシュの事は興味深かっただろう。

 ランシュはニヤリと笑い、フェティに尋ねた。


「何かおもしろい発見でもあった?」
「なんの事?」


 彼女は訝しげに眉をひそめる。


「だってオレは、この世でたったひとりしかいない体細胞クローンの生きたサンプルだよ。何か訊きたいから声をかけたんじゃないの?」


 フェティの目が少し見開かれ、形のいい眉が一瞬ピクリとつり上がった。
 てっきり怒り出すものと思ったら、彼女はフッと笑った。


「そうね。あなたは確かに興味深いわ。だから一言言ってやりたかったの」

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