バイナリー・ハート 番外編
6.二人きりの研究室


 シンクに山積みになった試験管やシャーレを見て、ランシュは途方に暮れた。

 今日はユイとロイド先生の結婚記念日だ。
 ユイは何日も前から楽しみにしていた。

 ランシュにも一緒に記念日を祝おうとお誘いがあったが、副局長に補佐を頼まれたとウソをついてお断りした。

 データの上では家族になったとはいえ、ラブラブ夫婦の記念日を邪魔するほど野暮じゃない。

 副局長のフェティには事後承諾で研究室を訪れた。
 すると、口裏を合わせる代償として片付けを命じられたのだ。

 口実に使った遠心分離器は絶好調で、バイオ専門のフェティを機械工学専門のランシュに補佐できる事など何もない。
 それこそ洗い物の片付けくらいしか。

 大きくため息をついて、ランシュは白衣の袖をまくった。

 フェティは部屋の奥でコンピュータに向かい、資料を作成している。
 佳境だった研究はすでにめどが立って、成果物を整える段階にあるらしい。

 そのため連日深夜まで研究を補佐していた助手たちもすでに帰宅している。
 夜も更けた静かな研究室には、フェティとランシュの二人だけがいた。

< 90 / 101 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop