ファントム・ブラック
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時刻は間もなく、午前0時を過ぎようとしていた。
固く閉め切った窓に絶え間無く打ち付ける風雨は、さらに激しさを増していく。誰かが外から窓に向かって、砂利でも投げつけているんじゃないかと思うぐらい。アパートの二階だから、そんなことはまずないだろうけど。
天気予報によると、今年初めて上陸した台風は夜半のうちに通り過ぎるという。
おかげで今日は、有無を言わせず定時退社。最近残業が続いていたから、台風なんかじゃなかったら単純に嬉しいんだけど。
だけど夜半というのは、こんなに長く感じるものだったとは……
激しい雨音を聴いているうちに、これは私に与えられた試練なのかもしれないと思えてくる。
千田葉子(せんだようこ)、二十三歳。
一人暮らしに憧れて、実家を離れて就職した私への試練。
アパートの二階だから、浸水の心配はないだろう。それよりも、もっと怖いのは停電だ。
だって、私は極度の怖がり。
この歳になっても、未だに照明を消した真っ暗な部屋で寝ることはできない。自慢じゃないけど、いつも豆電球を点けて寝ている。
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