ファントム・ブラック


「すみません、もう少し待ってください」


可奈が焦ってる。
何の話だろう?


「うん、よかったら千田さんも一緒に」


櫻井先輩が私を見て、にこっと笑う。
まともに顔を見ていられなくなって、顔を伏せた。ぺこっと頭を下げるように。


きゅうっと胸が締め付けられる。
好きとか、そんな気持ちとは少し違うけど苦しくなる。


「お疲れ様、また明日」


手を挙げて、櫻井先輩が身を翻した。
駅へと向かう櫻井先輩の後ろ姿から、目が離せない。挨拶するのを忘れていたと気がついたのは、櫻井先輩が見えなくなってから。


「葉子も来れそう? 来週の金曜日に櫻井先輩の友だちと合コンするんだけどね」


申し訳なさそうに可奈が話してくれる。
私を誘ってくれなかったことより、櫻井先輩が合コンと聞いた方が少しショックかも。


でも……合コンするということは、櫻井先輩には彼女がいないってこと?
いや、あの顔でいないはずない。


「私も行っていいの? 合コンなんて行ったことないんだけど?」


ぐるぐると頭の中で巡らせながら尋ねた。
もし、櫻井先輩が来るなら行ってみたい。


「うん、葉子も……と思ったけど、櫻井先輩は来れないって言うから。私の高校の同級ばかりだけどいい?」


あまりにも呆気なく期待は崩れていった。
だけど櫻井先輩が来るなら、可奈は誘ってくれるつもりだったんだ。少しずつ気分が浮上してくる。


「ありがとう、だったら私も行っていい?」

「うん、もちろん」


可奈の笑顔が嬉しい。


実は男の人は苦手。
男性恐怖症じゃないけど、人見知りが激しくて特に男の人とはなかなか話せない。そのせいか、高校を卒業してから今まで彼氏もいない。


少しぐらい克服できるかな?



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