ファントム・ブラック


じっと猫の行動を追ってみると、猫はテーブルの上を覗くように首を伸ばしてる。
そして迷いもなく、テーブルの上へとジャンプ。


「あっ、待って!」


呼び止めたけど、遅かった。
猫はあっという間に私のお茶碗に顔を埋めて、黙々と食べ始めた。


ああ……私のご飯が……
泣きそうだけど、文句も言えない。


ご飯を平らげてしまった猫は、満足そうに舌で口の周りをぺろり。再びベッドへと上がって、丸くなってしまった。


悔しい。
お茶碗には米粒ひとつも残っていない。


いつも食べる分だけしか炊かないから、もう残っていない。だからと言って、野菜炒めだけの晩御飯なんて寂しすぎる。


冷蔵庫を開けて、何か無いかと物色した。
思ったより、冷蔵庫の中がすっきりしている気がする。続いて冷凍庫を開けたけど、何だか様子が違う気がする。


まさか猫が?


ちらっと猫を振り返った。
疑いの視線を投げかけるけど、猫は素知らぬ顔で。丸まって気持ち良さそうに寝てる。


そうだよね、猫が冷蔵庫を開けられるはずがない。


冷凍保存しておいた白いご飯を取り出して、電子レンジへ投入。我が物顔をしてベッドで眠る猫を横目で見ながら、スマホを取り上げた。


そっと足音を立てないように、ベッドへと近づいていく。猫の写真を撮るべくスマホを構える。


「猫、こっち向いて……」


呼びかけてみたけど、猫は見向きもしない。


「おーい、写真撮らせてよ」


これ以上近づくと、また引っかかれそうで怖い。ギリギリ手が届かない距離からズームで撮った写真は、丸まって寝ている猫。しかも正面じゃなくて、横顔だし。


貰い手なんて、見つかるかなあ……



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