ファントム・ブラック
翌日、出社した私は可奈に猫の写真を見せた。本当はあんまり見せたくなかったんだけど。
「全部寝てるし、横向いてるし……目を開けてる写真はないの?」
「呼んでもツンとして目を開けてくれないし、こっち向いてもくれないんだもん……」
私が猫に嫌われてるのか、猫というのはそういうものなのかは分からないけど、まともに写真も撮れないなんて。
一番顔が正面に近い写真を、可奈に送信した。
「猫のトイレとか置いてるの? 砂とか置いてたら猫ってすぐにトイレ覚えるでしょ?」
「え? トイレ?」
問われた私はキョトンとしていたと思う。私の反応に、可奈がぎょっとした顔をしたから。
「葉子、まさか置いてないの?」
「だって知らなかったもん……そんなの置いてないよ」
「あーあー、どこかで隠れてしてるかもよ……昨日はどうだったの? 臭くなかった?」
顔面から血の気が引いていく。
家の中のどこかで、あの猫が用を足していると思うとぞっとする。早く家に帰りたい。
「帰りに絶対に砂買いなよ、あ、合コンのお店決まったみたい。駅前の鳥キチっていう居酒屋だって、行ったことない店かも……」
「うん……」
聞いたことない店。
と思いながらも、頭の中は早く帰ることばかり考えていた。家の中が最悪の状態になっていないことを祈りながら。