ファントム・ブラック


どうして私が、猫の砂なんて買わなきゃいけないんだろう。貰い手が見つかるまで、仮に置いてあげてるつもりなのに。

こんな物を持ってるところを同じアパートの人に見つかったら、猫を飼ってるって疑われるじゃない。

辺りを警戒しながら部屋の鍵を開けて、素早く中へ入った。

「ただいまぁ」

照明を点けると同時に、思いきり息を吸い込んだ。猫のオシッコは臭いから絶対にすぐに分かる、と可奈に言われたから。

でも、それらしい臭いはしない。部屋をぐるりと見渡しても、らしき痕跡はない。

食事の準備をする前に、買ってきた猫砂と猫用トイレを玄関に置いた。ワンルームのアパートの小さな玄関には、はっきり言ってすごく邪魔だ。

「猫、玄関にトイレ置いたから、したくなったら行くんだよ! 他の場所でしたら追い出すからね!」

ベッドの上で丸まってる猫にきつく言ってみたけど、相変わらず。

ホントに寝てる?
聞こえてないフリだったら、やっぱり性格の悪い猫だ。とっとと手放してやる。

ついでにベッドの下やテーブルの下を覗いたり、あらゆる場所を確認したけど特に変わった様子もない。

この猫、ここに来てからしてないの?
二日間も我慢してるの?

疑問に思いつつも、部屋を汚されてないからいいかな。と私は食事の準備を始めた。


< 15 / 22 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop