ファントム・ブラック
あっという間に金曜日はやって来た。
猫はまだ貰い手が見つからず、家に居着いてる。玄関に置いた猫砂は、一度も使ってないのが不思議だ。でも部屋を汚されてる訳じゃないから、いいかな。
可奈と会社を出ようとすると、櫻井先輩が慌てて駆け寄ってきた。
「村上さん、千田さん、ごめん、特急業務が入ったから行けなくなったんだ。僕の後輩が先に店に行ってると思うから、本当にごめん」
と言って、申し訳なさそうに何度も頭を下げる。
「いいですよ、仕事優先してください。私の友達ももう着いてるはずですから、楽しませてもらいますね」
「お疲れ様です。頑張ってください」
ちょっと残念だけど、仕方ない。
駅前の居酒屋に着いたら、私たち以外のメンバーは揃ってた。
可奈の友達は本当に同じ年かと疑ってしまうほど化粧が上手で、服装も大人びてる。櫻井先輩の後輩は、先輩とは全く系統の違う雰囲気の人ばかり。何だか可奈と私が場違いかと思える。正直、このまま帰りたいと思った。
「可奈と……葉子ちゃん? お酒大丈夫?」
可奈の友達に呼ばれてドキッとした。
「うん、大丈夫。私は生で、葉子は?」
「じゃあ、私も生にする」
さらっと答える可奈につられて、私も頼んだ。普段はお酒はあまり飲まないけど、こんな時ぐらいいいよね。