ファントム・ブラック


お酒の力ってすごい。
あんなに緊張してたのに、全然気兼ねなく話すことが出来る。いつしか皆と打ち解けられて、楽しくなってきた。

櫻井先輩の後輩の人たちはみんな親切で、とても気が利く。常に話が途切れてしまわないようにしてくれたり、飲み物を注文してくれたり。

私が途中、トイレに行って戻ったら可奈が笑顔で迎えてくれた。

「葉子の猫の話してたんだけど、田中さんが猫好きだから見てみたいって、よかったね」

私の向かいに座ってる田中さんが、にこっと笑う。

「猫大好きだから、今度見せてもらってもいい? 俺のアパートは動物OKだし」

「ホントですか? 嬉しい……ちょっと可愛くないとこのある猫だけど大丈夫ですか?」

「大丈夫、猫ってそんなもんだよ。ベタベタするのが嫌いだから」

やっとあの猫から解放される。
と思うと嬉しかった。

その後もすごく盛り上がって、気づいたら時刻は終電間際だった。また今度会おうと約束して、みんな慌てて店を出た。

ふと見上げたら綺麗な満月。
でも視界がぼんやり滲んでる。何となく脚がふらつくのは気のせい? もしかして、飲み過ぎた?

ふらりと傾きそうになる体を、誰かが受け止めてくれた。振り向いたら、田中さん。

「家どこ?」

「南町です」

「俺も南町、近いから送ってくよ」

優しそうな笑顔と支えてくれた力強さに、胸がドキッとする。


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