ファントム・ブラック
今だって部屋の照明を煌々と点けて、観ていないのにテレビも点けっぱなし。しかも音量は、いつもより大きくしている。
もしもの時のために懐中電灯は用意しているけど、出来れば……
いや、絶対に使いたくはない。
窓に叩きつける雨音の他に、どこかでペットボトルかゴミ箱が右往左往している音が聴こえてくる。不快感とともに、ますます目が冴えていく。
もはや、自分に対する嫌がらせとしか思えない。
さらには雨音に混じって、何かが軋む音。ベランダにあるものといえば、ごみ箱と物干し竿。ごみ箱は倒れないように寝かせておいたし、物干し竿は帰宅してすぐに下ろしたはず。
もし竿を下ろし忘れていたとしても、こんな激しい風雨の中で竿を下ろす気にもなれない。その前に、窓を開ける気にもならない。
「絶対に大丈夫」
はっきりと、力強く、声に出して言い聞かせた。
だけど、いつまで待ってみても音は鳴り止まない。どう聞いても鳴り止みそうにもない。
次第に自信が揺らいでくる。
もし突風に煽られた竿が外れて、窓ガラスに直撃したらどうしよう。となりの部屋や他人の家の窓ガラスだったら……
生まれた不安は、次第に悪い予想へと発展する。