ファントム・ブラック
そっと彼の顔が離れた。
崩れ落ちそうになる体を受け止めて、彼がするりと抱き上げる。いわゆるお姫様抱っこで、私をベッドへと横たえた。
「お前のおかげで術が解けた。一応、礼を言わなきゃな」
言ってることは意味不明。
でも、見下ろして笑ってるのは悔しいほど綺麗な顔。
「たぶん信じないと思うけど、俺は猫にされてた。満月の光と異性のキスが術を解く鍵だったらしいな」
「うそ……」
そんなバカな……
ハンサムが真顔で何を言ってんの?
「嘘じゃない」
むっとした顔が迫る。
納得出来る気もした。
猫缶を食べなかったのも、猫砂で用を足さなかったのも、猫じゃないから?
でも……
「あなたのために買った猫缶、どうしてくれるの?」
自分でも分からないことを言ってると気づいたけど、言葉が口を突いて出る。
「バーカ、あんなモノ食べれるか」
にやっと笑って、彼が覆い被さった。
私の手を取り、甲に優しく唇で触れる。ぽうっと顔が熱を持つ。
「引っ掻いて悪かった、今日からは優しくしてやるよ。だから……ご飯炊いて」
甘い声で頬を押し付けた。
猫のままの方がよかったんじゃない?
貰い手を探す必要はなくなったけど、これからどうしようか……
ー完ー