ファントム・ブラック
猫だ!
ガラス越しに鳴き声は聴こえなかったけど、うずくまる猫の輪郭がぼんやりと浮かび上がる。
どうして、こんな所に?
疑問は浮かんだけど放っていられなくて、慌てて窓を開けた。
差し伸べた手に、ぐっしょりと濡れた体が触れる。冷え切った体を抱き寄せると、滴り落ちそうなほど水を含んでいる。
急いで窓を閉めて、お風呂場へと駆け込んだ。
とりあえず、洗わなくちゃ。
猫なんて飼ってないから、猫用のシャンプーなんて持ってない。仕方ない、私のシャンプーで洗うしかない。
本当なら白いはずの泡が、どんどん濁っていく。
「熱くない?」
シャワーを浴びせながら話しかけたけど、猫が返事するはずない。じっとしたまま動かない猫の体を撫でつけて、泡を洗い流していく。
尻尾に触れたら、きっと猫が振り返った。
「痛いっ」
引っ掻かれた手の甲から、じわっと血が滲んでくる。
「もう……、洗ってあげてるのに、いったい何なの?」
なんて言ってやっても、猫は知らん顔。
首輪をつけていないし、やっぱり野良猫なんだなぁ……と実感してしまう。