ファントム・ブラック

「ほら、キレイになったよ、お腹空いてない?」



と言ったものの、猫の餌なんてあるわけない。
縁の欠けた小皿に牛乳と食パンの切れっ端を載せて、猫の前に置いてみた。キャットフードのCMみたいに、がっついてくれるかな……と期待しながら。



ところが猫は一目見ただけで、ふいっと顔を逸らしてしまう。いかにも「いらない」と言わんばかりにの態度が、ますます気に入らない。



さらに前足をぷるぷるっと振って、私に背中を向けた猫はぺたんと座り込んで体を舐め始めた。隅々まで丁寧に。キレイに拭いてあげたのに、いったい何が気に入らないんだろう。



「お腹が空いたら食べなよ、今日はここで寝てね」



部屋の隅にくたびれたタオルを敷いて、牛乳を水に入れ替えて、食パンの切れっ端を載せた小皿を隣に置いた。



まだ、猫は毛繕いしている。
熱心なこと。



猫に気を取られていたせいか、あんなにうるさかった風雨の音は、いつの間にか気にならなくなっていた。


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