バージニティVirginity
MOTEL葉山
もう潮時だと思うのか、これで対等になったと思うのか、玲は迷っていた。


「シュナウザー?」

玲は、運転席でハンドルを握る豊に聞き返す。

豊は前を見たまま、言った。

「そう。犬のシュナウザーね。
毛のクルクルした。
あれ、欲しいって言うんだよね」

「へえ」

「俺、面倒臭いんだよね、犬って。
可愛いけどさ。そんで、十八万とかするし。どう思う?」

「さあねー」
玲は笑い出す。

豊はこの頃、鼻の下と顎に薄く髭を生やしていた。
彼によるとデザイン髭、とかいうらしい。

「買ってあげれば、いいんじゃない?」

玲は指先で、豊の顎髭に触れながら言った。

「新婚なのに、子供いらないっていわれたら犬ぐらい欲しくなるよ」

豊は表情を変えずに言った。

「そうだよなあ。買うかな」



午前10時を少し過ぎた。

車は大船を過ぎ、葉山へと向かっていた。
空には早い夏雲が出ていた。


こんなに晴れているのに、もったいないな……
玲は思う。


玲と豊が向かっている場所は、天気など関係ない場所だったから。



豊が子供を拒否する理由は、

『玲と会いにくくなってしまうから』だと言う。



葉山のモーテルの部屋はアカレヤシの鉢が置かれ、海をイメージしたインテリアは南国のリゾートホテルを思わせた。


この部屋は玲のお気に入りだった。

玲は、ベッドに横たわり、白い清潔なシーツの冷たい感触を素肌で味わう。


それを邪魔するのは、豊だ。


玲の片脚を持ち上げ、足の甲にキスした後、唇を這わす。


玲の足の親指から小指まで口に含み、爪先から踵まで丹念に舐めていく。


豊の生温かい舌の感触。


ずぶずぶと底無し沼に、はまっていくような感覚……


玲の口から悩ましい声が漏れる。



豊は女の脚を舐めるのが、好きなのだ。

初めてそれをされた時に、玲はきゃっと叫んで、危うく豊の顔を蹴飛ばしそうになった。

男にそんなことをされたのは初めてだった。



『軽く変態だよね』

玲がそう言うと、豊は照れ笑いした。

『嫌い?』


玲は、豊の顔の前に右脚を突き出し、言った。

『好き。
気持ちいいから、もっとやって』




< 1 / 57 >

この作品をシェア

pagetop