バージニティVirginity
年下の男
返信はすぐにきた。

[玲と逢えるなんて嬉しい!
夢が叶った!]

サトルは大袈裟なびっくりマークのたくさん付いたメールを寄越してきた。

若い男に逢瀬を熱望されるのは悪い気はしなかった。

玲は自分のベッドに腰掛け、くすっと笑った。






土曜日、佳孝は朝早くから一泊の社員旅行に出掛けた。


サトルとは、横浜駅の緑の窓口の前で待ち合わせた。
週末の午後5時の横浜駅構内は大勢の人で溢れ、賑わっていた。

玲が5分遅れてその場所に着くと、白いダンガリーシャツにジーパン姿のサトルは背中を丸めて柱に持たれ、携帯をいじっていた。

「久しぶりぃー」

玲が手を振りながら近づくと、サトルは嬉しそうに目を輝かせ、にっこりと笑った。

「玲ちゃん、久しぶり。元気だった?」

「うん。元気元気。サトルくんがラウンジ辞めて以来だから、結構経つよねえ。
2月だったよね、辞めたの」

「そうそう」

サトルは玲の足元から顔までを品定めするかのように見た。

サトルは、よくこういう風に人を見る、と玲は思った。
それは不快、というほどではないけれど、あまり感じのいい癖ではない。

「やっと玲ちゃんが逢ってくれる気になってくれて嬉しいよ。
やっと神様がご褒美くれた感じ」

サトルはぴょんぴょん跳ねるように玲にまとわりつく。

(可愛い、子供みたい…)

玲は可笑しくて、クスクスと笑った。

夜の繁華街を歩きながら、これからどうする?と玲が訊くと、サトルはカラオケに行こう、と言う。

玲は驚いた。
食事か飲みに行くと思っていた。

先月、熱海の保養所でカラオケをやったから、正直いってあまり気が進まなかった。
玲はあまり歌が得意ではない。

佳孝の前では気にしないけれど、他人の前で歌うのは恥ずかしかった。

相手がカラオケが好きかどうかもわからないのに…

玲は少し呆れたが、今の若い子はそんなものかもしれないと思い、笑顔で答えた。

「いいよ。サトル君の歌、聞かせて」





テーブルの上には、唐揚げやポテトフライ、ピザ、生春巻きが次々と運ばれてきた。

なんでも良いと玲が言ったので、全てサトルが選んだものだ。


「最近のカラオケボックスってなんでもあるのねえ」

玲が感心していうと、

「そう?昔からあると思うけど」
サトルは目を丸くして笑った。

サトルと玲はテーブルを挟んで向かい合わせに座る。

「仕事はどう?」
玲が聞くと

「つまんねー」
サトルは素っ気なく答えた。

サトルはビールで乾杯してから、玲の知らない流行りの曲を歌った。

テンポを取るのが難しい曲を、サトルは器用に歌いこなしていた。

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