バージニティVirginity
「玲に男がいるのは、薄々わかっていたよ!
2年前、俺は玲を傷つけてしまった。
ずっと後悔していた。
だから、俺は気がつかないフリをしてた。いつか、男とは別れて元に戻ってくれるって。でも、ここまでやるなよ!
妻が堂々とキスマーク付けてるの見て、平然としていられる程、俺だって馬鹿じゃない!」
佳孝は大声でまくし立て、もう一度テーブルをどん!と叩いた。
玲は、豊のことを気づいていた、という佳孝の言葉に愕然とした。
言い訳などする余地はない。
完全に玲が悪者だった。けれども、玲は反撃に出た。
「佳孝だって…自分のこと棚に上げて、結局、まゆみとかいう子と続いてるんじゃない。熱海に行った時、真夜中にロビーで電話してたでしょ。
私、佳孝がいないから、探しにいって見たんだから」
ことの発端はこれだった。
私だけ責めないで。
始めに浮気したのは佳孝じゃない。
佳孝だっておなじことしたじゃない…
玲はそう言いたかった。
夫は、こともなげに妻の言葉を撃ち落とした。
「見たなら言えよ。あれは酔っ払った高校の先輩がかけてきたんだ。
まゆみとはとっくに何もない」
佳孝は玲の目を真っ直ぐに見た。
「まゆみは高校の時、付き合ってた同級生だ。たまたま教習所に来てて何度か担当してるうちにまゆみに告白された。
ずっと俺を忘れることが出来なかったって。もう一度付き合いたいって。
一時期、俺は昔に戻ったみたいにまゆみを好きなった。俺たちはそういう仲になりかけたけど、そうはならなかった。
……なんでかわかるか?」
玲は首を振った。それは否定とも肯定ともとれる振り方だった。
佳孝は溜息をついただけで、答を言わなかった。
「俺、しばらく川崎から通勤するから」
佳孝は玲のそばを離れ、寝室に向かった。
「待って!」
玲は叫ぶようにして、佳孝に追い縋った。
「佳孝が出て行くなら、私が小田原に帰る。だから、ここにいてよ。
お願いだから、ここにいて」
涙が溢れて来た。
涙声でいいながら、事の深刻さが身に染みてくる。
取り返しのつかない事態になるかもしれない。
豊のこともサトルのこともただの火遊びだ。
そのために佳孝との結婚生活を失うことなど出来ない。
自分にとって一番大事なのは、佳孝だーーー
佳孝は振り返った。
「ここは、玲のお父さんが玲に買ったマンションでしょ。なんで俺が住むの?」
佳孝は、すこし笑い、皮肉っぽく言った。