バージニティVirginity
玲は慌てて言い訳するように言った。

「だって、あの測定する機械、握りにくくない?どうやってあんなもの握ればいいのかわからないんだもん」


「いやーん、そんなの握り方、
分かんなーいって…可愛いなあ」

加集が声色を変えて、からかうように言う。

玲は加集の言った意味がセクシャルなものだと気付くと、背負われている自分がいけないことをしているような気持ちになった。


ーー男の人の背中に、抱きついている。
思い切り脚を拡げて。
彼氏でもない人なのに。

「イヤ。加集さん、そんなこと言うなら降ろして。足痛くてもいい」

玲は小さな声で加集を咎めるように言った。
その声には媚びが含まれていると自分で気がついていた。


「握力計の話だろー」
加集はうそぶいて、玲を背負ったまま、歩き続けた。


コートごしに加集のぬくもりが伝わってくる。
足の痛さだけではなく、加集が盾となって風の冷たさも感じなくなる。

その背中の頼もしさに、玲は甘えてみたくなった。


(男の人っていいな……)

生まれて初めて思った。





昼食を摂るために、城ヶ崎海岸から車で移動した。

どこでもいい、と玲が言ったので、加集は

「じゃあ、次に見つけた店に入るよ。」

と言い、通りすがりのハンバーガー屋に入った。

白いデッキの店の入り口には、三股に分かれた大きくて細長いサボテンの鉢植えが置いてある。


「こういうのよく、西部劇に出てくるよね」

サボテンを指差して加集が言った。

サボテンの横には、紺地に白抜き文字で
『国産牛使用のハンバーガー』
と書かれたのぼりが立てられていた。

お客は玲と加集の他、1組のカップルがいるだけだった。


加集はカーキのジャンバーを脱ぐと椅子の背に掛けた。
中には赤い長袖のTシャツを着ている。


地味なカーキより派手な赤の方が加集に似合う、と玲は思った。

布で覆われていても、一目で何かスポーツをやっていると分かる身体つきだ。


「中学の時、こっそりテニス部に入ろうと思ったんだよね」

ハンバーガーを食べながら、加集が唐突に言いだした。

その店はハンバーガーとマッシュポテトとフライドポテトがワンデッシュになっていて、ハンバーガーのボリュームがすごかった。

「テニス部?空手は?」

玲はチーズバーガーを上下に分割して食べながら訊く。

あまりにも厚みがあるので、どうやって食べていいのかわからなくて苦戦していた。

加集は喋りながら、ハンバーガーを上手く押さえ、食べていた。

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