バージニティVirginity
「久しぶり。元気だった?」
金井サトルが立っていた。
サトルはグレーのスーツ姿だった。
玲は顔を背け、立ち去ろうとした。
「おっと!」
サトルがぐっと玲の左腕を掴んだ。
「何だよー。そんなに冷たくするなよ。俺たち他人じゃないんだぜ。お互いの全てを知ってるんだから 」
玲は直感した。
サトルは自分の後をつけてきたのだと。
男が女の腕を掴み、何か言っている。
それだけで通り過ぎる人びとは、玲とサトルを好奇の目で見る。
明らかに年齢差のある二人。
何か揉め事があったら、面白いのに、という視線。
玲は押し黙った。
サトルが薄笑いを浮かべながら言った。
「写真、よく撮れてたけど、
どうする?」
玲は驚愕した。
「なんのこと….?」
声が震える。
やはり消してなかったんだ……
最低の男だ…サトルは桜田と同じだ。
「あと1回、やらせてくれたら許してあげる。
玲だってすっごく楽しんでたじゃん」
動揺する玲の腕を、サトルはしっかりと掴んで離さない。
(サトルの言う通りにしようか……)
脅しに乗ってしまえば、つけこまれるのは分かり切っている。
(加集さん、どうしたらいい…?)
混乱する頭の中で、玲は加集に問いかける。
「どうかしたんですか?」
1人の黒っぽいスーツ姿の若い男が玲に向かって話しかけてきた。
見知らぬ男だった。
「なんでもないっすよ。
おたく、関係ないでしょう」
サトルは、そういいながら、玲の腕から手を離す。
男は背が高く痩せていて、眼光が鋭かった。
サトルは明らかに怖気付いていた。
「関係ねえけど、彼女、困ってるじゃないか。みっともねえことすんなよ」
男は強気に言い、玲にむかって
「大丈夫ですか?」と聞いた。
玲はうなづくと、サトルを睨み付けた。
「変なことしたら、あんただってただじゃ済まないから!」
サトルに向かって言葉が自然に出た。
「もう行ったほうがいいですよ。
追いかけないように見てますから」
「ありがとうございます」
男に促され、玲は改札へと小走りした。
玲は佳孝と車の後部座席で抱き合い、キスをしていた。
久しぶりの佳孝の抱擁。
生温かい唇の感触。
ーー良かった。佳孝が帰ってきてくれて……
私を許してくれた…
感極まり、玲の目から一筋の涙がこぼれ落ちる。
唇を離すと、キスの相手は佳孝ではなかった。
何時の間にか、男は加集に変わっていた。
加集は白い道着を着て、腕を組み、穏やかな笑みを浮かべていた。