全てを失った二人の物語
〜♀〜
「ん?……!!もう、朝?」
結局釈放することなかったんだ。
昨日、メイドさんらしき人が温かいスープを持ってきてくれたこと迄は記憶にある。
「ねえ、シリウス。トニーは来た?」
「いや、来てねえな。
オレは一睡もしてねえんだから、間違いない」
ガクリ と肩を落とす。
早く釈放されたい、
そしてイタリア料理を食べたいな。
「…そう。
じゃああたしはまだここにいなきゃいけないんだ」
「そういうことだな」
そこまで言って黙ったシリウスは、あたしの後ろ─階段辺りをジッと見つめていた。
つられて、あたしも振り返る。
「あ、トニー!」
そこには、
目の下に隈をつくったトニーがいた。
もしかしたら、昨夜は寝ていないのかも知れない。
「大丈夫かい、まり」
あたしの牢屋の鉄格子を、トニーが掴む。あたしはトニーのもとへ駆け寄った。
「大丈夫だよ!!
だけどトニー…貴方こそ大丈夫?
昨日寝てないんじゃない?」
トニーが、申し訳なさそうに喋り出す。
「─…本当なら、昨日のうちに釈放できるはずだった。
すまない、私の力不足だ」
悔しそうに拳を握るトニー。
すかさず、
シリウス身を乗り出す。
「それ本当か?
お前本当はまりを帰したくないんじゃないのか?」
トニーの瞳がこれでもか、と開かれる。
「─ッ!!
何を言う狼藉者!!」
反射的に剣を構えたトニーに、シリウスは身動き一つしなかった。
その剣は鉄格子をすり抜け、シリウスの首にあてられている。
「トニーやめて!!
シリウスもだよ、トニーは悪くないでしょ!!」
まりの叫びはむなしく響いただけで、二人は睨み合いをやめようとしない。
「─じゃあ、
そこまで動揺する必要ないよな」
「動揺などしていない!」
「…どうだか。
動揺してないって言うなら、この危ないやつどけてくれ」