全てを失った二人の物語
酒場
「はーい!ラム酒入りましたー」
ガヤガヤとざわめく店内。
此処は、屈強な男どもが屯う酒場アントーニ。
「おっ、まりちゃん。何時もありがとーな!」
「いえいえ。こちらこそ」
そんな中、溌剌と笑顔を振り撒きながら、屈強そうな男どもに酒を運んでいる女性。
年のころは、十八、九ほど、だろうか。
まり――と呼ばれて返事をする姿は、どこかあどけない表情ながらに、ほんのりと色香を漂わせて。
本人の無意識故の事なのだが、男どもは殆ど皆、彼女を見てうっとりとしている。
彼女は気付いていないが。
「おーい!まりちゃん!こっち注文!」
「あ、はーい!今行きまーす」
パタパタ と彼女が駆ければ、揺れるポニーテールと、仄かに香るバラの匂いが漂う。
彼女は酒場アントーニの看板娘。
彼女が居るから、此処アントーニは、この辺り一番の酒場である、と言っても過言ではない。