全てを失った二人の物語



響く金切り声。

まりは軍隊に知らせるために路地へと向かう。が、シリウスの方が足が早く、まりを黙らせようと彼女の口を押さえ、きつく抱き締めた。


「ン゙ー!!!ン゙ーーー!!!!」

「お前、落ち着け!というか黙れ!!
軍の連中にバレるだろ!!
だから大丈夫だって!女に暴力はしない!

…暴力は」


…嫌な予感。

既に最悪の状況に落ちつつあるが、まりは必死にその状況から脱しようともがく。


「ン゙ーー!!!」

「そんなにオレに抱きしめられるのが嫌か!?
わかったよ、離すから落ち着け!」


シリウスの言葉を信じ、まりは黙った。
潤んだ目でシリウスを睨みつけ、足をじたばたと動かし続ける。


「…!!(だれかっ、だれか!!!)」

「……いい子だ」


やっと解放された…

そう思った瞬間、目の前がシリウスでいっぱいになった。

不意に唇に感じた、柔らかい感触。

数秒後、軽く音を立てて離れる唇。


「…ごちそうさまでした」

「え……う、うそ……

…うそ……!」


あたしのファーストキス、こんな訳わかんないマフィアとか名乗る奴に取られた…の!!?
信じられない、うそ!!!!

うそ………!!





「その反応…お前初めてか?」


シリウスが興味深そうな目でまりを見る。


「その歳までキスしないなんてお前…
どんな生活送ってきたんだ?」


シリウスの質問にも答えないで、ただ青ざめるまり。
今彼女に何を言っても無駄だ。

その場にへたへたと座り込む。


「…おい、お前名前は─――」




「今、奴の声が聞こえた!お前たち、血眼になって探せ!」


軍の隊長の声が聞こえる。
やっと、助けが来た。よかった。


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