全てを失った二人の物語
牢獄と過去
〜♀〜
……あたしが、家を出るきっかけになったのは、彼のお陰だった。
闇の中に一人ぼっちでいたあたしに光をくれた、彼。
名前も、顔も覚えていないけど。
黒髪の美しい少年だった。
*
「ん……?」
懐かしい夢を見た。そんなことを思って、瞳を開けた時に見えた景色は鉄格子。
瞳を開けたにも関わらず、真っ暗なこの場所に一筋光が差し込んでいる唯一の場所だった。
「??……ん!」
何故自分が、こんな場所に居るのか分からなくなったのは一瞬で、直ぐに頭にその原因は浮かび上がった。
今日の夜、いや、朝日が射してるんだから、昨日の夜だ。
昨日の夜、トニーに牢獄へ連れられちゃったんだ。
「おい、まりっ」
隣の牢屋に、見たことのある格好の人物がいた。
赤いバンダナ、隈…ひげ……
「…あ!!思い出した!!シリウス…ええと、シリウス・ブリーフ!!!」
「違う!!!
何でブリーフだ!オレはパンツか!
フリーダム!
シリウス・フリーダムだ!!!!」
シリウス・フリーダムは鉄格子を掴んでガタガタ言わせながら言った。
「あ!!なんか色々…思い出した!!
あたし、シリウス・フリーダムのせいで今ここにいるんだった!!」
「長いだろ、その呼び方。
シリウスでいい、シリウスで。
確かに、お前はオレのせいで今ここにいる」
淡々と言ってのけたシリウスに、あたしは怒るつもりで近寄った。
「本当にアナタ…じゃなくて、シリウス、あの時何がしたかったの!!?
今でも憎たらしいけど、そもそもシリウスが早く逃げなかったからこうなったんだよ!!」
「誘ってきたのはお前だろ?
瞳に涙溜めて、あんな色香漂わせて…お前の自業自得だ」