青空にさよなら
失くしていた記憶
お腹の底から出した声。
彼の名前はもう何回も呼んできたけど、今まで一番大きな声だった。
「碧!碧!碧ーっ!」
何度も何度も名前を呼びながら土手を駆け降りる。
碧の正体はわかっているけど、まだ心のどこかで信じたくないという気持ちがあるみたいで。
この先の日当たりが一番いい場所で、碧がいつものように寝転んでいるんじゃないかと思ってしまう。
だけど、そんな淡い期待を裏切る形で、碧はあたしの前に姿を現した。
「なあに、蒼唯?」
いつもと変わらない声がどこからか聞こえたかと思えば、あたしの前に碧が空からふわりと降り立った。
“普通の人間”なら、こんなふうに空から舞い降りてくることなんてできない。
「そんなに走ったら、また転んじゃうよ?蒼唯」
苦笑する碧。
でもあたしは、それに返す余裕もない。
「どうして……今日に限って、そんな現れ方するのよ……」
自分は幽霊なのだ、と。
素直に認めたみたいな、わざわざそんなふうにあたしの前に姿を見せなくたっていいじゃない。
涙を浮かべるあたしに、碧は申し訳なさそうに言った。
「だって、これ以上蒼唯を騙すみたいな真似、したくないから」
そんなこと言われても嬉しくないよ。
「何言ってるの、俺は人間だよ」って、そう言って笑ってほしかったよ……。