青空にさよなら
あたしの脳裏に、美空の顔がよぎる。
あの、下唇を噛んであたしに水をかけてきた瞬間の顔が。
美空は……今、どうしているのだろうか。
「これは英語で、これは数学のノートで……」
「……先生」
ノートのコピーを教科ごとに綺麗にまとめている先生を、あたしは呼び止めた。
「あの、えっと……クラスで変わったこととかってないですか?」
「え?」
「どういう意味?」とでも言いたげな様子で、澤田先生が首を傾げる。
あたしは、視線を落としてもう一度聞いた。
「その……美空とか…変わった様子はないですか……」
ごにょごにょと口ごもりながらになってしまったけど、先生にはちゃんと聞こえていたようで、あたしがそんなことを聞いてきたことに驚いたのか目を丸くする。
「須藤さん?どうして?」
この様子だと、あたしがいじめられていたことだけでなく、入学してすぐ美空がいじめられていたことも先生は知らないらしい。
熱意はあるんだろうけど、そういうところは鈍いよなぁと呆れる気持ちも少々ありながら、あたしは首を横に振った。
「いえ、なんでもないです。忘れてください」
なおも不思議そうにしている先生と目を合わせることがないように、あたしは何事もなかったかのようにノートのコピーの文字を追い始める。