僕らはただ、恋がしたい
逢巳陽季と笈川茅沙の関係は、逢巳家と笈川家の友好の成り立ちが元凶だ。
大手ゲームメーカーの逢巳と華道の家元である笈川は以前から深い友好関係を築いてきたという。
今でこそ大企業の仲間入りを果たしている逢巳だが、昔は笈川の資金援助で会社を支えていた。
長年の変わらない支援のおかげもあり、3代目である祖父の代にはそこそこ名の知れたものとなり、祖父の跡を継いだ現社長の力で今の地位へと上り詰めた。
ジャンルは違えど、笈川と対等な立場へと成長したのだ。
これにより、両家に"支えている""支えられている"という意識はなくなり、ただただ私情だけで繋がるという現状が成り立ってしまった。
そのことについて不満をもつ者が増えてきたのは、ここ数年のこと。
その大半が、笈川の門下の者達だった。
経営が成功しただけの逢巳家と由緒正しき笈川家では立場の違いははっきりしている。
にもかかわらず、笈川は私情だけで資金援助をし続けてきた。
事実、逢巳が笈川を利用しようとしていなかったとしても、直接逢巳と関わることのない門下の者達にとってはそのような疑問が浮かんで当然だった。
そんなことを知ってか知らずか、育まれてきた友情の中『両家の血を受け継ぐ者を欲す』などキレイな言葉でよくあるお約束ごとを囁き続けてきた結果。
偶然に偶然が重なり、今まで同性の子供しか生まれてこなかった中ついに誕生した異性の子供。
それが俺と茅沙だった。