僕らはただ、恋がしたい
「そんな警戒しないでくださいよ、先輩」
思いっきり心を読まれてしまったが、特に気にしてはいないようだ。
「俺、景山桐斗(カゲヤマキリト)って言います。今日からよろしくです」
パーカーのポケットにつっこんでいた手を出し握手を求めてくる。
先輩…そう呼ぶということは俺のことを年上、もしくは自分が部下であると認識しているんだろうが、それならもう片方の手もポケットから出せと言いたくなるのをこらえ握手に応じる。
「…逢巳陽季。景山…は、誰だ?なんでこんなとこにいる」
率直な疑問をすぐさまぶつけた。
俺はこの会社に入社してもうすぐで1年になる。
年齢ではなく職歴で上下関係が決まることの多い一般社会で入社1年目の社員に普通部下はいない。
それなのにこいつは俺のことを先輩と呼んだ。
考えられる可能性がないわけではないが、自分から答えの候補を提示するのは面倒なので本人の口から言わせようと返事を待つ。
「あ、えっと…一応名刺はもう作ってもらったんですよ…あ、あったあった。はいどうぞ」
肩にかけていたバッグからようやく出てきた名刺を受け取る。