僕らはただ、恋がしたい
秘書部のフロアにエレベーターが到着する。
足取り軽くエレベーターを降りた景山に続く俺は鉛のように体が重い。
「…うちには広報関連の部が2つある。1つは事務的活動を主とした広報部、もう1つはパフォーマンス的活動を主とした秘書部。秘書部はその名の通りの秘書としての仕事だけでなくイベントでの売り子やパフォーマー、社内見学の際の案内役などOMIの顔として表に出る…って、聞いてないな……」
気付けば俺を置いてさっさと秘書部のオフィスに入っていた。
透明扉の向こうでは秘書部の女性に囲まれる景山が見える。
秘書部秘書部と騒いでいたぐらいだから秘書部の説明は不要かもしれない。
…本当は、秘書部に近づきたくなくて少しでもと時間稼ぎのつもりだった…が、どうせ逃げられないのだからそんなこと無意味だ。
「陽季くん?どうしたの、入りなよ」
中から俺の姿が見えたのか、秘書部の先輩が扉を開いて俺を呼んだ。
しぶしぶ中に入り扉近くで立ち止まる。
そっと、目だけで茅沙を探す。
すぐに見つけた茅沙の居場所から死角になるように移動した。
幸い、秘書部の案内は景山に興味津々な様子の女性達がしてくれる雰囲気だし、終わるまでここでじっとしていればいい。
そう思った矢先。
「茅沙ちゃん、陽季くん来てるよ」
俺を中へ入るよう促した先輩が、自分の仕事に戻るついでのように茅沙に話しかける声が聞こえた。
茅沙から死角ということはもちろん俺からも死角なわけで、先輩の言葉に茅沙が反応したかはまったく見えない。
けど、俺がいると知って茅沙が動かないわけがない。
…だからここに来るのは嫌なんだ。
死角から現れた茅沙と目が合いその気持ちは一気にふくらんだ。