僕らはただ、恋がしたい
「やだ、また同じような恰好しちゃって…たまにはオシャレしたら?」
手探りでタオルを掴み、拭きながら顔をあげると鏡に映った母さんと目が合った。
「素材はいいんだからさ…ちゃんとすればモテるわよ?」
「ほっとけ」
吐き捨てるように言い歯ブラシを手にとる。
「女性に対してそんな口聞くから女が寄ってこないのよ。あ、あなたの場合男も寄ってこないんだったわねー」
嫌味たっぷりにそう言う母さんを鏡越しに睨む。
ベッと舌を出した母さんはあくびをしながら長い髪をヘアクリップでまとめた。
シャワーをあびるつもりなのか、着ていたキャミソールとショーツを無造作に脱ぎ、息子とはいえ成人男性の前でためらいもなく全裸になる。
相変わらずのプロポーションだことで…。
40代とは思えないスタイルの良さは社員の中でも話のネタとして尽きない。
美人な母親を少しは自慢に思ったこともあるが、堂々と男を連れ込む姿を見て育っているとそんな感情はどこかへいってしまったようだ。
ふと、母さんの首元に見えた赤い跡に気付き歯ブラシを口にくわえたまま「かーはん」と声をかける。
顔を向けた母さんに自身の首元を指差すと、首をかしげながら洗面台に近寄り鏡をのぞきこんだ。
「あら、あの子やったわね…今日は大事な接待があるから見えるとこにはつけるなって言ったのに」
「接待?」
「そう。だから今日は遅くなるから」
「飯は?作らなくていいのか?」
そう言った瞬間、すねに蹴りを食らった。