僕らはただ、恋がしたい
「おはようございます、陽季さん」
気が付けば、何人かにあいさつの言葉を向けられていた。
「おはよう、陽季くん」
「おはようございます、陽季さん」
スタスタと早足で俺を追い抜いて行く人々。
冬の朝の通勤ラッシュの人混みがだんだんとバラけだし、さっきまでおしくら饅頭だったせいか少し肌寒い。
ブルッと体を震わせた時、周りの人間が同じ方向へ向かう同じ会社の人間だけになっていたと気付いた。
もうこんなとこまで来てたのか、と体をさすりながら顔をしかめる。
洗面所で母さんに怒鳴られたところまでは記憶にあるが、その後のことをほとんど覚えていない。
それほどまでにぼんやりしていたのかと思うと理由が分かっているだけに少し情けなくなってくる。