樹海を泳ぐイルカ
薄暗い館内で水槽の青がより幻想的にみえた。
「ちょっと座ろうよ」
「うん」
僕たちはジンベエザメが泳ぐ水槽前のベンチに腰をおろした。
ジンベエザメを目の前に、その圧倒する存在感に驚きの声をあげる少年と
その姿を暖かい目で見守る少年の両親。
「すげー!パパよりおっきい!」
「ははは。健太の100倍はあるかもな」
「健太はお野菜食べないと大きくなれないわよ」
「はーい」
少年は母親の言葉に少しふてくされた声で返事をした。
他人には入り込めない暖かな空気。
目にみえない愛しさが体中からこぼれていた。
僕たちも、ぼんやりと大きな体で水中を漂うジンベエザメを眺めた。