樹海を泳ぐイルカ
「お兄ちゃんがアメリカにいったあと苦しくて苦しくて苦しくて、樹海へ逃げたの。またお兄ちゃんが見つけてくれる気がしたから」


透子が樹海の出入り口を把握しているのは、森の精霊とかそんなんじゃない。

ただ単に毎日通い慣れた道だから。



「未来なんてほしくなかったんだよ。過去なんてみたくなかったんだよ。痛みを感じる今が怖くてしかたがなかったんだよ」




思い出していた。


父さんの事故のこと。

母さんの泣き崩れる背中。

受験に必死になった自分の姿。

クラスメイトの荒んだ笑顔。



消えてしまいたかったんだ。


「そう思ってたら彼方に出会った」



そう




そんなときに透子に出会った。

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