樹海を泳ぐイルカ
透子が振り向くときの光が僕には明日を生きる意味だった。
たとえばそれが誰かにとって不愉快なことでも。
「彼方は悪魔だったあたしと普通に話してくれて…それがなんだか普通の女の子になれたみたいで嬉しかった」
透子は目を細めて愛おしそうに話している。
僕はただじっと、そんな透子の横顔をみつめていた。
「それにずっと夢だった水族館にも連れてきてくれた…彼方には感謝してもしきれない」
アナウンスの音が館内に響く。
『ご来店のお客様に申し上げます。14:30からイルカショーを行います。場所は2F……』
周りが急にざわつく。
そしてみんなぞろぞろと一気に水槽から離れてイルカショーへむかっていった。
あたりには僕と透子だけが残った。
急に静かになる館内。
魚たちが眩しい青のなかで自由に泳ぐ。
「だけど……あたしアメリカにいく」
透子の声が静まり返った館内に静かに響いた。
いや、響いたのは
僕の心だったのかもしれない。