樹海を泳ぐイルカ
授業のチャイムが鳴った。
「チッ」と誰かが舌打ちする。
助かった……
そんな言葉が薄れていく意識のなかで頭をよぎった。
中谷が最後に一発僕を蹴りつけ、小林が僕の顔めがけて唾を吐きつけた。
「はい席につけー」
担任が教室のなかに入ると、いっせいに僕から離れて自分の席につく。
みんな少しでも教師の好感を得ようと必死なのだ。
教師の目線が床に倒れこんだ僕を見つけた。
だがすぐにその視線は出席簿にうつされる。
教師だって有名私立高校の名を汚すわけにはいかなくて、学校内でおきた問題は簡単にもみ消していた。
「世良、早く席に戻りなさい」
担任は低く小さな声でそう呟くと、明るい声で出席をとりはじめた。
教室には生徒の元気な返事が響く。
僕にココロは要らない。