樹海を泳ぐイルカ
僕にはまだ、たくさんのやらなければいけないことが残っていた。
怖くはない。
抱きしめあうぬくもりを僕は知っているから。
家に着いた夜、玄関のドアをゆっくりあけた。
そこは僕が昼間飛び出して、荒れ果てた悲惨な状態のまま残されていた。
割れた花瓶の破片を踏まないように、倒した家具を蹴らないように、散乱した紙屑や蹴り散らした置物のわずかな隙間をみつけて僕はリビングへと進んでいく。
何もみえない真っ暗なリビングに電気をつけた。
「…………」
散乱した部屋の真ん中に母さんがひとり呆然と座り込んでいた。
僕はその頼りない後ろ姿をジッと見つめた。