樹海を泳ぐイルカ
樹海を走り抜けた。
後ろを振り返らないで
ただ足を進めた。
柔らかな風が僕を包む。
樹海の葉がカサカサ揺れた。
僕はふと立ち止まる。
握りしめた掌をゆっくりほどくと、昨日までの思い出が蘇ってくるようだった。
この手で繋いだ透子のぬくもり。
ひとすじ風が吹いて樹海の葉が揺れる。
そうだ、透子は此処にいる。
聞こえない声で僕を呼んでいる。
目を閉じて風を感じると、透子がみえた。
そうだ、いつだって此処にいる。
僕らはイルカだから──
僕は通学カバンを握りしめて走り出した。
木々の隙間からは徐々に明るくなる太陽の光が僕を照らしだしていた。