樹海を泳ぐイルカ
第2章 新たな呼吸


「ただいまー」


この扉をあけると、僕はまた優秀な1人息子になる。

欠陥部分を削ぎ落として、明るい笑顔の仮面をつけるのだ。



「学校どうだった?」

夕食時に母さんが得意のスパゲティを茹でながら、テレビのニュースをぼんやり眺めている僕に尋ねてきた。


これはいつものことで母さんは僕の学校生活をやたら聞きたがる。


「楽しかったよ。昼休みに友達とサッカーしたし数学の時間に難しい応用問題が解けたのはクラスで僕だけだったから先生に誉められた」


「そうなの。すごいじゃない」


母さんは僕の嘘の報告を満足そうに堪能していた。


僕が語るのは夢物語にすぎない。

どうか母さん、夢から覚めないで。




母さんの綺麗な鼻歌がニュースキャスターのきびきびした声に混じり、僕は黙ってそのふたつの音を聴いていた。



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