樹海を泳ぐイルカ
『次のニュースです。今日午後五時頃、東京都渋谷区の中学三年生の男子生徒がマンションの屋上から飛び降り、病院に運びこまれましたが間もなく死亡しました。原因はクラスによるいじめと見られ、遺書も残っており………』
厚化粧のキャスターに淡々と読み上げられるそのニュースに僕は釘付けになった。
「まぁ……怖いわねぇ」
母さんが恐ろしそうに、だけどどこか他人事のように呟いた。
僕は母さんの言葉を聞き流し、そのニュースを食い入るようにみつめた。
空中から落下していくとき彼は何を考えたのだろうか?
現実の闇の世界から飛びだした少年はやっと自分の道を手に入れたのだ。きっと。
彼は最後に自分を陥れたやつらに噛みついて、安息を手に入れた。
今ごろ少年を踏み潰したやつらは青い顔でニュースをみているに違いない。
それを少年は此処ではないどこかで眺めているのだろうか?
「スパゲティできたわよー」
「はーい」
母親の明るい声と同時にテレビを消した。