樹海を泳ぐイルカ
「ねぇ、聞いてるの?」
彼女の声で僕は我に返った。
「……はい」
僕は情けないほどの小さな声で返事をした。
彼女は僕の応答を無視して階段に腰を下ろした。
いつのまにか彼女の視界から僕はいなくなっていた。
そこには僕より遥か遠く、青い澄み切った空が映し出されている。
そして彼女は気持ちよさそうに、ウーンと伸びをした。
なんだか拍子抜けだ。
体中を張り巡らせていた緊張の糸が、するりとほどけてしまった。
僕は手すりにもたれ、ハァと小さくひとつ溜め息をした。