樹海を泳ぐイルカ


「ねぇ、聞いてるの?」

彼女の声で僕は我に返った。

「……はい」

僕は情けないほどの小さな声で返事をした。


彼女は僕の応答を無視して階段に腰を下ろした。
いつのまにか彼女の視界から僕はいなくなっていた。

そこには僕より遥か遠く、青い澄み切った空が映し出されている。


そして彼女は気持ちよさそうに、ウーンと伸びをした。




なんだか拍子抜けだ。




体中を張り巡らせていた緊張の糸が、するりとほどけてしまった。


僕は手すりにもたれ、ハァと小さくひとつ溜め息をした。



< 24 / 157 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop