樹海を泳ぐイルカ
ふいに彼女が声をだした。

「君、よく此処に来ようと思ったね。誰も近寄らないよ、こんな樹海。」

「導かれたんです……森の精霊に」


こんなこと言ったら笑われるだろうか?
だけど本当なんだ。
確かに僕は何か大きな力に誘われた。僕を手招きしてたんだ。
呆気なく彼女に引き戻されてしまったけど……


「ふぅん」

彼女はいたって真面目な顔をして聞いていた。

なんだかイマイチつかめない人だ。

「貴女だって、普通じゃないんでしょ?ここにいるってことは」

「普通ってなに?誰が基準なの?」


彼女は冷たく言い放った。

その言葉は氷のように冷たく、炎のように熱かった。


「そんなの奇麗事ですよ。普通はある。暗黙の了解で。ある一線をこえると、仲間から除外される」

僕は誰にいうわけでもなく、呟いた。


「上手に生きるには、他人のあいだを上手に泳がなくちゃいけない」
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