樹海を泳ぐイルカ
第3章 仮面
それから僕と透子は、何を話すというわけでもなく微妙な距離を残し隣に寄り添いあった。
だけど時間はあっという間にすぎて、青空が少しオレンジに染まりだした頃、僕は立ち上がった。
「そろそろ帰るよ」
「もう帰るの?」
「うん、家では孝行息子なんだ」
「大変ね」
分かっているのか、分かっていないのか透子はポツリと呟いた。
「送ってあげる!」
「い…いいよ!!1人で帰るから」
男が女を送るならまだしも、男が女に送られるなんて今まで聞いたことがない。
僕は慌てて断った。
「本当に帰れるの?」
僕は透子の指でしめした先の樹海をみた。
行きは、何の迷いもなく此処に来た。
道しるべもなしに。
光が指すほうへ、ただ足を進めた。
だけど今の樹海は、薄暗い海の底のように光なんて見あたらなかった。
僕は素直に透子に従うことした。