樹海を泳ぐイルカ
本当ならこの世とさよならしているはずの自分が「ただいまぁ」と、家に帰ってきていることが不思議だった。
家に帰ってきたとたん母さんがバタバタと足音をたてて僕のまえで仁王立ちした。
いつもの「おかえり」の明るい声と優しい微笑みはない。
そのかわり眉間にしわをよせて、血走った目をつりあげて僕を睨んでいる。
「彼方、学校から連絡があったわ」
……ああ、めんどくさいことしやがって。
顔色ひとつ変えず心のなかで呟いた。
「いきなり飛び出したってどういうこと?!?今までどこいってたの?!?」
母さんが僕を揺さぶった。
こんな細い身体のどこからこんな力があるのだろう?と思うほど強く僕の肩をつかむ。
長く伸ばした爪が肌に食い込んで、痛い。
「問題なんかおこさないで!!!内申に響いたらどうするつもり?!?変な噂が広まったら…!!!」
息もつかぬ早さで母さんは叫び続けた。
「父さんは、こんなことしなかったはずよ!!」