樹海を泳ぐイルカ
第5章 見上げた空
「彼方みたいな人に初めて会った」
透子がフフフと柔らかく笑う。
「そう?僕みたいなヤツはどこでもいるよ。つまり“僕”なんてどこにもいないんだ」
「じゃあ、あたしが見ているのは誰?」
「知らない」
僕はそっぽを向いて冷たく言い放った。
それでも透子が真っ直ぐ僕をみているのがわかる。視線をそらさないで。
これじゃあまるで僕が逃げたみたいだ。