樹海を泳ぐイルカ
透子の笑い声がゆっくり小さなくなって、やがてプツンと途切れた。
「あたしのお兄ちゃんはね、格好いいのよ」
「…ふぅん」
「あ、兄バカだなと思ってるんでしょ?…まぁその通りだけどね」
そう言って透子がやんわりと微笑んだ。
その笑顔が、どこか切なげに見えたのは僕の思い過ごしだろうか?
「でも本当に格好いいのよ。成績優秀、スポーツ万能、おまけに優しいし」
容姿は透子の兄なのだから、教えてくれなくてもわかる。
格好いいんだ。きっと。
僕が見てきたどの男よりも。
透子がそうであったように。
「そんな兄を一番近くで見てた妹がその魅力に気付かないわけないでしょ?」
あぁ、なんだか胸がざわつく。
彼女が語る、世界で一番大切な人のこと。
耳が痛い。
「……そうだね」
僕は力なく答えた。