樹海を泳ぐイルカ
「彼方もうそろそろ帰ろっか」
透子がそう言った頃はもうすでにあたりは真っ暗だった。
樹海の木々が不気味にざわめきあっている。
「そうだね」
樹海の帰り道、いつものとおり透子は僕の前を歩き出口の道案内をしてくれた。
透子は身軽な身体をひょいひょいすり抜けていく。
僕はそんな透子の背中をみていた。
「透子ってさ、どうして樹海にきたの?はじめ会ったときに言ったじゃん。“誰も近づかない”って」
「お兄ちゃん!」
その単語に、やっぱりという言葉が脳に浮かんだ。
「昔、お兄ちゃんとかくれんぼしたとき樹海(ココ)なら絶対に見つからないと思ってはいったの」
「樹海にかくれたの?」
「そう。当たり前のことなんだけど迷ってさ、大泣きしながらあたしたちがいつもいる古い建物に隠れてたの」
「……そうなんだ」
「そしたら太陽が沈む頃にお兄ちゃんがみつけてくれたの!……泣いてる声がきこえたって」
泣いている声は本当に聞こえていたのだろうか?
もしかして彼が聞いたのは透子の心の声……
イルカの声だったのかもしれない。