貴方の声を聴いたのだ、
1

ゆるり、ゆるり、
流れる空気は水色をしている。

今日は、あめ

窓を叩いては消えていく水滴は、景色をぼかして僕の網膜へと叩きつける。
ゆるやかな緑に、青か混ざって溶けて流れていく。

何もないから、君の好きな橙を愛でながら僕は静かに本を捲る。
この花の名前はなんと言ったっけ。
昨日嬉しそうに話してくれたそれも、既に僕の頭からはすり抜けてしまっていた。

あくびをひとつ、
午後三時の鐘が静かに華やかな音色を奏でる。
今日のおやつは何にしようか、
スコーンに昨日作ったジャムをたっぷりつけて、
紅茶はダージリン?
君の見様見真似で覚えた紅茶の淹れ方は、最近やっと君のお許しを頂いた。


音も無く開いたドアに君の姿。
頭の中をすっかりお菓子で埋め尽くされてしまった僕は、甘い甘い声でおかえりを言う。とろとろと溶け出しそうな声音に、ありったけの甘えを込めて。
そうしたら君はくすりと笑って、
ただいま、
と微笑んだ。

太陽のなか降る雨が辺りを散らすようにふわりと拡がる微笑みは、僕の橙の本の全てにふわりふわりと光を投げる。
君の背中に真っ白な羽根が見えるのは、どうしたって幻じゃない。

僕の背中ではたりと黒い羽根がその身を震わせた。



天使に見惚れた悪魔のはなし。
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