花街妖恋
 まだ人影もまばらな逢魔が刻の花街の一角に、妖気が渦巻いていた。

 かなり強い妖気だが、道行く人には変化はない。
 そもそも『妖気』だろうが、ただの『気』だろうが、普通のヒトには到底感知などできないものだ。

 その妖気は、時折激しくぶつかり合い、火花を散らす。

 やがて、一際大きく火花が散ったかと思うと、花街の路地裏に、一人の男が転がり落ちた。

『お、思い知ったかい。今後私のやることに、いちいち口を出すんじゃないよ』

 上空からそう言い放つのは、一匹の狐。
 普通の狐よりは大分大きい、白金色の狐だ。

「お前がやたらと人の色恋に首を突っ込むからではないか。見ていて気分の良いものではない」

 男が言い返すが、上空の狐は、ふん、と鼻を鳴らした。
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