花街妖恋
「強風に煽られて、足を挫いてしまったようなの」

 俯いたまま、玉菊は悔しそうに言う。

 道中は注目の的だ。
 そんなところで、恥は晒せない。

 まして今、この華龍楼には太夫がいないため、太夫に次ぐ地位の天神である玉菊が、華龍楼を背負って道中しているのだ。
 無様な姿は、この廓の恥になる。

 高い三枚歯下駄で足を挫いたなら、相当な痛みだったろうに、そのようなことはおくびにも出さず、涼しい顔で置屋まで戻ってきたのだ。

「さすが玉菊・・・・・・。でかしたぞ」

 遣り手が言いながら玉菊の衣の裾を少しめくると、真っ赤に腫れ上がった足首が覗く。
 そのあまりの痛々しさに、その場の誰もが青ざめた。

「折れているやもしれぬ。とにかく冷やしたほうが良かろう」

 皆が動けないでいる中、一人九郎助が進み出、手を付いたままの玉菊の前に屈むと、ひょいと履いていた下駄を脱がした。
 そしてそのまま、軽々と抱え上げる。

「っ!」

 驚いた玉菊だったが、一瞬暴れた途端に痛みが走ったらしく、すぐに大人しくなった。
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